続・湘南のお地蔵さま(94)『もうひとつの舟地蔵』
2024年10月19日 (江ノ電沿線新聞)

続・湘南のお地蔵さま(94)『もうひとつの舟地蔵』
藤沢市 大庭 中島淳一
辻堂駅から大六天経由のバスに乗り大六天で下車。目の前には収穫を待つ金色の穂波が境川沿いに広がる。すぐ先の坂道を二百メートル程登ると、稲荷神社が中央に鎮座する小さな森がありそこを左に進む。すると道路の横に立派な石の舟に横向きにちょこんと坐るかわいいお地蔵さまと出会う。
この像は地元では「旧舟地蔵」と呼ばれ、舟に彫られた銘文から江戸時代の嘉永六年(一八五三)に、この地の名主だった方により造像された。
この大庭地区には、以前私も紹介した有名な舟地蔵が大きな道路沿いに祀られる。その像は地区のシンボル的な存在で、交差点や公園の名前にまでなっている。ただこの二体の舟地蔵に何らかの関係があるのかはわかっていない。
舟に乗る珍しい姿の地蔵尊は江戸時代の中期頃に民衆に広まった岩船地蔵信仰という、船や水に関連した願いを叶える信仰に関係すると考えられている。この地区は昔から豊かな農村地帯で、それゆえに水田を潤す「水」には特別の思いがあった。
道路沿いの舟地蔵は「交通安全」など様々な旗に囲まれ人々の注目を集めているが、もうひとつの舟地蔵は大庭の原風景ともいえる里山の中にひとり静かに居る。どちらも歴史ある大庭とそこに暮らす人々を護る大切なお地蔵さまである。